コッペル、テキサスより。

"We love instability because instability gives us variability. We want those motions to be available. We just hate that you can’t control it." - James Anderson

皆様こんにちは、阿部です。今週末はテキサスはコッペルでImpingement and Instability、通称I&Iというアドバンスト・コースを受講してきました。Instability = 不安定症ということだったら、望ましいものじゃないでしょ?なんでそんなことを学ぶのに2日間も費やすの?と言われそうですが、冒頭の講師・Jamesの言葉通り、使いこなせばInstabilityもImpingementも我々に必要なものであることがわかるはずです。アドバンスト・コースだけに顔見知りが多く、質問も議論もハイレベルで刺激たっぷりの講習でした。

私がこの講習を通してしみじみと感じたのが、「variability」の大切さです。PRIは患者さんに対して「貴方のやっていることのこれが間違っている、このままだとこうなります」と脅しをかけたり、PRIのコンセプトのみが正義だと突き付けるようなことはしません。その代わり、患者さんに「貴方はどうやら『この場面ではこれ!』という特定のものを選ぶ『好み』や『癖』が強いようですけど、他にも選択肢はあるのをご存知でしたか?」と本来あるべき全ての選択肢を共に見つけ、並べて、その中から患者さん自身が「(その状況にあった)最善の正解」を選べるようにする手助けすることを目標としています。これを、我々はよく「variabilityがある」状態、という風に表現します(断っておくと、この表現は別にPRIが発明したものでも、PRIの世界に限ったものではありません、念のため)。

抽象的でどういう意味かよく分からない、という方もいるかもしれません。もう少し説明します。例えば、呼吸とヒトクチにいっても様々な呼吸の仕方がありますよね。横隔膜を使った呼吸(腹式呼吸というと語弊があるかもしれませんが、ここでは敢えて深く言及しないでおきます)、呼吸補助筋である胸鎖乳突筋や斜角筋も使った首や第一・二肋骨を中心に起こる呼吸、ヨガなどで使われるお腹を深く深くへこませるホローイングやドローイング、腰椎・胸椎の伸展を伴う胸式呼吸…。PRIは特定の呼吸法に対して「これが正しい呼吸である」「これが間違った呼吸である」という表現の仕方をしたことがありません。何故なら、どれが正解かは「状況による」からです。

しかし、我々は「呼吸の選択肢が限られていて、特定の呼吸に頼り切りにならなければいけなくなっている」状態は「正常でない」と感じます。例えば、バタフライ専門の水泳選手が競技中に水面から顔を出した際、胸椎と腰椎が伸展したそのポジションから肺になんとか空気を引き込もうと思ったら首と第一・二肋骨中心の呼吸「しかできない」のは『当たり前』です。(そんな選手に対して、「横隔膜を使っていないじゃないか!これではだめだ」という施術者は選手のニーズを全く理解していないことになります)。しかし、この選手が練習を終え、プールを出てシャワーを浴び、着替えたりしている「休息時」には、横隔膜をしっかり上下し、肋骨の内外旋を起こし、深く静かに空気を動かす呼吸をするのが最も理に適っているはずです。この呼吸が選択肢に存在すらしないとしたら、大きな『問題』になり得ます。

そんなわけで、我々の目標のひとつは呼吸のvariabilityを確立することです。PRIは一度も「弱い横隔膜は悪である」「横隔膜を強くしよう」と言ったことはありません。横隔膜の強さって、かなりinvasive(侵襲的)なEMGでも打たないと計れないんじゃないですかね?

呼吸だけでなく主軸と四肢のmovement(動き), perception(知覚・認識), 目や耳などの感覚器官、咀嚼、歩行…様々なものに対してvariabilityというコンセプトは当てはまります。右と同じように左も、3つ全ての運動面で自由にexploreできる、その揺らぎを楽しめるようになれば「variabilityがある」ということになります。交感神経・副交感神経の振れ幅も例外ではありません。状況によって最大限にギラギラと興奮することも、最大限にゆらゆらとリラックスすることも、両方できてこそ人は人としての機能を最大限に発揮できます。PRI講習講習に参加してくださった方ならここらへんはしっかり理解してくださってるはずだと思います。

そんなわけで、ああ、結局大事なのは揺らぎ(perturbation)がなんだよなー…、ああ、「世界は揺らぎでてきている」という宇宙粒子学の本を最近読んだなー…、人体と宇宙はつながっているなー…、生きているということは揺らぐということなんだなー…、とかなりおかしな思考になったところで今回の講習が終わりました(笑)。Jamesから日本の皆さんへ、いくつか言伝を頼まれたので近々皆様と共有できたらと思います。それでは、そろそろ飛行機に乗って帰ります。またー!

Sayuri Abe-Hiraishi, MS, ATC, CSCS, PRT, PES, CES
2017年01月30日